Synvie:ブログの仕組みを利用したマルチメディアコンテンツ配信システム

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山本 大介
名古屋大学 情報科学研究科
清水 敏之
名古屋大学 情報科学研究科
大平 茂輝
名古屋大学 エコトピア科学研究機構
長尾 確
名古屋大学情報メディア教育センター

1 はじめに

近年,インターネットの発達と共に,映像・音楽などのマルチメディアコンテンツがWeb上で頻繁に配信されている.その一方で,ブログやSNSなどの登場により個人からの情報発信が一般化してきている.本研究では,マルチメディアコンテンツとそれらを取り巻くWebコミュニティとを効果的に融合させ,閲覧者の自然な知的活動からコンテンツに関する知識をアノテーションとして獲得・利用する手段を提案し,実用化を目指すシステムとしてSynvieを開発した.

2 コンテンツのWeblog化

本研究では,既存のWeblogエントリーと同様な形でマルチメディアコンテンツを配信するための枠組みを提案する.Weblogの枠組みを用いて映像コンテンツを配信するサイトは一般にビデオブログと呼ばれているが,その映像の任意の時間区間に対してのコメントが付与できないなど,いくつかの課題や問題点が指摘されている.

2.1 本研究におけるWeblogの定義

本研究では,Permalink, Annotation, Trackback, XML Feedsの4つの仕組みを備えるWeblogを対象とする.これらの仕組みをマルチメディアコンテンツに対して適用することをWeblog化と呼ぶ.

2.2 映像シーンに対するアノテーション

Weblog化のための要件の一つとして,ユーザがコンテンツの任意のシーンに対して容易にコメント付与などのアノテーションを可能にする仕組みが必要である.そのために,筆者らが以前の研究で作成したオンラインビデオアノテーションシステムiVASの仕組みを発展させて利用する.

本研究では,映像シーンに対してコメント情報を記述することをテキストアノテーションと呼び,二種類のインタフェースを提案する.一つ目は,図1に示すように,映像の任意のショットに対してコメントを付与できる簡便なインタフェースである.二つ目は,図2のような,映像の任意のショットの矩形範囲に対してコメントを付与するためのインタフェースである.ユーザはこれらの仕組みを用いることにより,映像コンテンツに対して,電子掲示板感覚で他のユーザとコミュニケーションを図ることが可能になると同時に,様々な種類のアノテーション情報を映像コンテンツに付与することが可能になる.

任意のショットに対するアノテーション

図1: 任意のショットに対するアノテーション

任意の矩形範囲に対するアノテーション

図2: 任意の矩形範囲に対するアノテーション

3 レビュー記事の生成と配信

既存のWeblogとビデオブログとを積極的にリンクし,映像コンテンツとそれを取り巻くコミュニティを活性化させるための仕組みを提案する.具体的には,ユーザが映像シーンを引用することにより,そのコンテンツに関する記事(レビュー記事)の作成を支援する仕組みを提供する.

3.1 レビュー記事の生成

ユーザのアノテーション履歴から,アノテーションを施したショットを対象としたレビュー記事テンプレートを自動生成する.レビュー記事テンプレートは,テキストアノテーションを施したショットに対してはそのショットのサムネイル画像及びコメント,印象アノテーションを施したショットに対してはそのショットのサムネイル画像と空欄テキストフィールドからなる.また,ショット及びコメントは次節で述べるインタフェースを用いて修正可能である.

3.2 レビュー記事の編集

ユーザは,Weblogなどで通常のエントリーを書くのと同様に,一般的なWebブラウザを用いて,レビュー記事テンプレートの編集が可能である.

本研究では,二つの編集インタフェースを提案する.一つ目は,シーン伸縮型の映像レビュー記事の編集インタフェース(図3)である.これは,対象シーンを時間的に前後にショット単位で伸縮させることに対象シーンの修正・変更が可能であり,より正確に選択することが可能なインタフェースである.二つ目は,ドラッグアンドドロップ型の映像レビュー記事の記述インタフェース(図4)である.過去にユーザが施したテキストアノテーションや印象アノテーションに対応するショットが右側のストックに保持されており,その中から任意のショットをドラッグアンドドロップ形式で複数選択し,その複数のショットに対してコメントを付与することが可能なインタフェースである.

編集されたレビュー記事は,既存のブログへXML-RPCやAtom APIの仕組みを用いて投稿する.

シーン伸縮型編集インタフェース

図3: シーン伸縮型編集インタフェース

ドラッグアンドドロップ型編集インタフェース

図4: ドラッグアンドドロップ型編集インタフェース

3.3 レビュー記事からアノテーションの獲得

レビュー記事の編集結果には様々な知識が含まれており,二つの観点からアノテーションとして知識の獲得が可能である.

アノテーションのテキスト情報について考察すると,映像を閲覧しつつ投稿されたテキストアノテーションには,誤字脱字や,言葉足らずなコメントが少なからず存在する.レビュー記事を執筆することによって,間接的にこれらのテキスト情報を見直し,テキストの修正や補完が行われることが期待できる.

アノテーションの対象シーン情報について考察すると,誤選択された対象シーンの修正を期待できるだけでなく,映像の構造情報の取得が可能になる.シーン伸縮型インタフェースによって選択された連続するショットからなる対象シーンは,それに対応するコメント内容に基づいた一つの仮想シーンとみなせる.また,ドラッグアンドドロップ型インタフェースを用いて選択されたショットの集合は,対応するコメントの意味内容に基づいて,関連性があると考えられる.これにより,ショットの連続性とショットの関連性という二つのパラメータで表現可能な映像の隠れた構造を発見することが可能になり,映像の構造化に関する知識を獲得することができる.

4 おわりに

本稿では,Weblogの仕組みを映像コンテンツの任意のシーンに対して適用する仕組みを提案した.これにより,映像コンテンツをWeb上で効率よく扱う枠組みを提案しただけでなく,映像の構造化情報も含めたより詳細かつ多くのアノテーションを獲得することが可能になった.なお本システムは,2005年度前期のIPA未踏ソフトウェア創造事業による支援を受け開発中(http://synvie.net/)である.