オンラインビデオコンテンツを中心としたコミュニティ支援システム
1 はじめに
近年ブロードバンドネットワークの発達と共に、インターネット上でビデオRンe塔cを柔軟に取り扱える環境が整いつつある。現状ではビデオコンテンツを閲覧することしかできず、インターネットの双方向性という利点をあまり活用していない。そこで、筆者らは以前の研究で、ビデオコンテンツに対してWebブラウザを用いて閲覧者がアノテーションを容易に作成できる環境を用意し、それによって得られたアノテーションを用いて検索などの応用に利用する仕組みを提案した。本研究ではビデオコンテンツにWeblogの仕組みを取り入れる事によって、コンテンツとそれを取り巻くコミュニティを活性化する仕組みについて提案する。
2 オンラインビデオコンテンツのWeblog化
Weblogは、インターネット上で記事(エントリーと呼ばれる)を効率よく配信するための仕組みである。Weblogにはそれぞれのエントリーに対して、閲覧者がコメントを付ける、トラックバックでリンクを張る、更新情報をRSS(RDF Site Summary)で配信する仕組みが備わっている。これらの仕組みを用いて、各々のエントリー同士をトラックバックなどのリンクで結びつけることにより、Weblogエントリーを中心としたコミュニティを活性化することができる。本研究では、Weblogのエントリーをビデオコンテンツ(の任意のシーン)に置き換えることにより、ビデオコンテンツとそのコミュニティの活性化を促す仕組みを提案する。コンテンツをWeblog化することをWeblogizeと呼び、WeblogizeされたビデオコンテンツをVideoblogと呼ぶ。
2.1 ウェブブラウザを用いたビデオアノテーション
Weblogizeのための一つ目の仕組みとして、ユーザがコンテンツに対して容易にコメントを付与できる仕組みが必要である。そこで、筆者らが以前の研究で作成したiVAS(intelligent Video Annotation Server)の仕組みを利用する。
ユーザは、ネットワークからアクセス可能な任意のビデオコンテンツに対して、iVASを通してアノテーション及び閲覧を行う。iVASでは、図で示す、電子掲示板風の3種類のアノテーションを提案した。映像の任意の連続するシーンに対してコメント情報を記述できるテキストアノテーション、閲覧者の主観的な印象をボタンを連打することによって行う印象アノテーション、さらに、各々のテキストアノテーションの情報の正しさを○×ボタンを押すことによって信頼性を評価する、評価アノテーションである。
このような仕組みを用いることにより、映像コンテンツに対して、電子掲示板感覚で他のユーザとコミュニケーションを図ることが可能になるのと同時に、得られた情報を映像コンテンツに対するアノテーションとして検索や要約等に利用することが可能になった。
2.2 トラックバックの適用
Weblogizeのための二つ目の仕組みとして、トラックバックの仕組みをiVASに取り入れた。トラックバックとは、記事の参照先から参照元への間に自動的にリンクを張る仕組みである。通常のサイト単位の相互リンクとは違って、記事単位のリンクであるため、よりピンポイントに、コンテンツに依存したリンクを張ることができる。さらに、このリンクは人間の主観によって張られるものであり、記事内容を意識した関連性の強いリンクである。
Videoblogのトラックバックの仕組みは、Weblogと同じであり、trackback pingを送ることによって成立する。trackback pingの送り先URLは次のようになり、対象となるコンテンツのIDと関連付けたいシーンの開始時間と終了時間を指定することによってトラックバックを受け入れる。
http://[ivas server address]/tb/[content ID]/[begin time]-[end time]
そのため、Videoblogは既存のWeblogには一切の改変を加えることなく、Weblogのトラックバックネットワークに参加することが可能である。
3 トラックバックに基づくビデオアノテーション
以上のように、ビデオコンテンツにトラックバックの仕組みを導入した。トラックバック元の記事内容は、トラックバックの張られているビデオコンテンツのシーンの意味内容に関連しており、アノテーションの一種として扱う事ができる。もし、ユーザにとってトラックバックを張る十分な利益があれば、人的コスト0でビデオアノテーションを行うことができる。そのための一つの手段として、以下の映像視聴記事作成インタフェースを提案する。
3.1 ビデオ視聴履歴からWeblogの半自動生成
ユーザはコンテンツを閲覧する時、iVASの電子掲示板風インタフェースを用いて閲覧することにする。このインタフェースでのアノテーションは閲覧時にリアルタイムに作成することを想定しているため、必ずしも十分な内容のアノテーションを期待できない。しかしながら、そのユーザにとって良いコンテンツであった場合、後からそのコンテンツに対する評価または感想の記事を書きたいという欲求がある。もし、後で記事を書くことを前提した閲覧の場合、簡便な印象アノテーションなどは施していることが期待できる。
そこで、iVASを用いてリアルタイムにアノテーションされた情報から、映像視聴記事対象シーンを推定する。具体的には、ユーザにとって興味深かっただろうシーンを推定し、そのコンテンツに対するWeblogのエントリーを書くためのテンプレートを提供する。また、ユーザにとって興味深いシーンへのリンクと、対応するVideoblogのシーンへのトラックバックを自動的に張る。その推薦結果に基づき、ユーザはそのシーンに対する感想等の記事を記述する。
映像視聴記事対象シーンの推薦の仕組みは概ね以下の通りである。まず、ユーザがそのシーンに対してどれくらいの興味を持っているかを示す度合いとして、興味度という指標を導入する。興味度は、そのシーンに対してどの程度アノテーションを施したかに応じて興味度が高くなる。具体的には、テキストアノテーションを記述したシーンに対しては興味度は高く、また印象アノテーションのボタンがたくさん押してあるシーンも興味度が高くなるようにする。そして、興味度の高い順にシーンn個を推薦する。さらに、同じビデオシーンの他のユーザの興味度と比較し、他のユーザよりもそのシーンに対して相対的に興味が高いシーンも推薦する。これは、シーンごとのアノテーションの数をある程度均等にするためである。
3.2 映像視聴記事の修正
ユーザは、Weblogなどで通常のエントリーを書くのと同様な形式で、半自動生成されたエントリーを修正できる。この修正結果はiVASにテキストアノテーションとして反映され、検索などの各種応用の精度をあげるのに利用される。修正できる項目は以下の3つである。1つ目は、アノテーションの対象となるシーンの選択範囲の修正であり、あらかじめカット検出されたカット単位でシーンの開始カットと終了カットを修正することができる。2つ目は、テキストの修正であり、3つ目はシーンごとに日記を公開/非公開するかの選択である。画面例を図に示す。修正された結果は、修正前のアノテーションに対して、上書き属性のアノテーションとしてXMLデータベースに記録される。これにより、人間の手が加わったより信頼度の高いアノテーションとして保持される。
4 おわりに
本仕組みを用いることにより、ビデオコンテンツとWeblogとユーザとを結びつけることが可能になった。これらの仕組みは二つの利点がある。一つはユーザが普段よくみるWeblogとビデオコンテンツとさらにそれに関連するコンテンツを結びつけることにより、コンテンツの流通の促進と活性化を促すことができる。さらに、コンテンツに対するビデオアノテーションとして、コンテンツの意味内容に基づく検索や、要約などの既存の研究などに活かすことができる。