知識活動支援システムによる会議コンテンツ間の関連性の獲得とその応用
1 はじめに
企業におけるプロジェクトや大学研究室の研究活動のように,議論や調査,実験・検証といった様々な活動を通じて,ある特定のテーマに関するアイディアを継続的に創出し,知識として具体化・理論化する知識活動が広く行われている.われわれはこれまで知識活動の中でも重要な役割を果たしている議論の内容を会議コンテンツとして記録し,再利用することで個人の知識活動を支援するシステム(以下,知識活動支援システム)に関する研究・開発を行ってきた.知識活動支援システムによって,会議中に取得することが困難であった,会議間に行われた活動の履歴情報を取得することができる.
本研究では,知識活動支援システムによって獲得された情報を利用したアプリケーションを提案する.具体的には,我々がこれまでに開発してきた会議コンテンツの検索・閲覧を行うためのシステムを拡張し,会議コンテンツを横断的に閲覧できる機能を実現した.閲覧者は,この機能によって単一の会議コンテンツを閲覧するだけでは分からなかった,複数会議の背景にある関連性を理解することができる.
2 知識活動支援システム
本研究では,会議を中心とする知識活動のサイクルを統括的に支援するシステムとして,図のような知識活動支援システムの研究・開発を行ってきた.知識活動支援システムは,会議コンテンツの作成を行うディスカッションレコーダ,作成された会議コンテンツの検索・閲覧を行うためのディスカッションブラウザ,そして,議論以降に行われる活動を統合的に支援するためのWebサーバ・クライアント型アプリケーションから構成されている.
ディスカッションレコーダは,ディスカッションルームに設置された複数のカメラとマイクロフォン,Webベースのツールを用いることで,会議コンテンツの作成を行う.作成された会議コンテンツは,Webベースのアプリケーションであるディスカッションブラウザで検索・閲覧を行うことができる.
しかし,議論中に指摘されたことを保留にしてしまうと,時間の経過とともにその存在自体を忘れてしまい,結果として放置されたままの議論になってしまう可能性がある.そのため,ユーザは,クライアントアプリケーションを用いながら,会議コンテンツ内の重要な発言に対してマーキングやタグの付与を行うことにより,議論内容を整理・分類することができる.マーキングは,自身の知識活動において重要な役割を果たす発言や単純な確認のための発言のような比較的重要度の低い発言が混在している会議コンテンツの中で,重要な発言と思われるものに目印を付けることである.それに対してタグは,単純なマーキングとは異なり,どのような観点から見て選択した発言が有益であるのかという属性情報を付与するために用いられる.
また,クライアントアプリケーションは,整理・分類された議論内容に基づいて得られた知識やアイディアをノートとして記録する機能を有している.ユーザがノート作成時に会議コンテンツの引用を行うことによって,ノートと会議コンテンツとの間のリンク情報を半自動的に生成することができる .さらに知識活動支援システムでは蓄積された情報を利用して,生み出された知識やアイディアを適切に盛り込んだスライドの作成を支援する.作成されたスライドを用いて再び会議を行うことによって,さらなる意見やアドバイスを獲得することができ,知識活動へのフィードバック効果を高められる.
3 会議コンテンツ間の関連性の獲得と可視化
本研究では,これまで同時に1つの会議コンテンツの閲覧しかできなかったディスカッションブラウザを拡張し,クライアントアプリケーションによって獲得した会議コンテンツ間の関連性を可視化して複数コンテンツの同時閲覧を可能にする手法を提案する.これにより,会議コンテンツを横断的に検索することができ,単一の会議コンテンツを閲覧するだけでは分からなかった,複数会議の背景にある文脈情報を理解することができる.本章では,クライアントアプリケーションによる会議コンテンツ間の関連性の獲得と,獲得した情報をディスカッションブラウザ上で可視化する手法について述べる.
3.1 クライアントアプリケーションによる関連情報の獲得
クライアントアプリケーションにおける履歴情報は,会議コンテンツやノート・スライドといったデータをノード,データの作成・編集時に付与されたリンク情報をエッジとしたグラフ構造として記録される.しかし,これらの情報は,ユーザの使用しているクライアントアプリケーションの内部にのみ存在するものであるため,このままではディスカッションブラウザで利用することができない.そのため,クライアントアプリケーションは,データの編集情報をサーバへ転送(コミット)したり,逆にサーバから編集情報を取得することでデータを最新の状態にする(更新)ことで,異なる作業環境にあるクライアントアプリケーション間で常に同じ作業状態を保持することができる機能を提供する.これにより,各クライアントアプリケーションに分散していた履歴情報を共有することができ,その中のリンク情報を解析することで会議コンテンツ間の関連性を獲得することができる.
しかし,コミット機能によってサーバに送信された情報の中には,覚書程度の個人的なノートや作成段階のスライドのように共有すべきではない情報も含まれている.そこで,本研究では,会議コンテンツやデータを識別するためのURIやタイトル,作成者といったコンテンツに含まれるメタデータ,およびURIの組み合わせで表現されるリンク情報をコンテンツ情報データベースに格納する.これにより,メタデータさえ記述すれば,コンテンツの種類に関係なくリンク情報を扱うことができる.
3.2 ディスカッションブラウザによる関連情報の可視化
クライアントアプリケーションによって獲得した会議コンテンツ間の関連性を用いて拡張したディスカッションブラウザの構成を図に示す.ディスカッションブラウザは,スクリーン・発表者・参加者の様子を視聴するためのビデオビュー,ディスカッションレコーダで取得した情報を俯瞰するための層状シークバーの他に,会議コンテンツグラフ,詳細グラフ,および議事録ビューから構成されている.
会議コンテンツグラフでは,クライアントアプリケーションで獲得した会議コンテンツの関連性をグラフで見ることができる.現在閲覧している会議コンテンツ,およびその前後の関係にある会議コンテンツがハイライトされており,グラフのノードをクリックすることで,該当する会議コンテンツを中心としたグラフが詳細グラフに展開される.
詳細グラフでは,現在閲覧しているスライドが作成する際に引用された発言や,現在閲覧している発言をきっかけにして作成されたスライド間の関係をグラフで見ることができる.このグラフのノードをクリックすると,該当する発言やスライドに関するビデオの再生が開始される.
議事録ビューは,現在閲覧している会議コンテンツに含まれるスライドのサムネイル画像や,個々の発言内容のテキストなどを見ることができる.また,これらの情報はビデオの再生と同期しており,再生時間に対応したスライドサムネイルや発言がハイライト表示される.
4 おわりに
本研究では,知識活動支援システムによって獲得した情報を利用して,ディスカッションブラウザの拡張を行った.これにより,会議コンテンツを横断的に検索することができ,単一の会議コンテンツを閲覧するだけでは分からなかった,複数会議の背景にある関連性を理解することができる.
今後は提案した手法の有効性の検証に加え,システムの長期的な運用を通じたデータの収集と分析,それによるユーザインタフェースの改善などがあげられる.